伸び

 短い睫毛にビューラーを
 薄い目蓋にアイシャドー
 軽くチークをのせてみる

 高いヒールを引っ掛けて
 ひらひらスカート踊らせる

 ちょっと冷めたふりをして
 あなたたちとは違うのと
 子供な同級生を手で払う

 大人相手でないとつまらない
 何せ私は大人なんだから
 子供の相手なんて似合わない

 大人な夜の繁華街
 ネオンサインが眩しく輝く

 バーでカクテル傾けて
 妖しげにグラスに目を落とす
 言い寄る男を冷たくあしらう

 なんて良い気分
 なんて素敵な高揚感


 隣に座った兄さんの
 オンザロックの氷がカラリ

 自分のグラスを覗き込み
 歪んで映る顔を見る

 慣れない化粧で皮膚がヒリヒリ
 楽しいはずなのに笑顔がピクピク
 高すぎたヒールに脚がズキズキ

 ネオンサインは痛々しいし
 男たちは欝陶しい
 水商売の女たちはけばけばしいし
 冷たい態度は面倒臭い

 大人の真似なんてするんじゃなかった
 大人みたいに振る舞ったって
 それが一番ガキっぽい
 それに気付かなかった自分は
 同級生より遥かに子供

 ハイヒール脱ぎ捨てて
 一刻も早く化粧を落とすため
 走って帰ろう

 本来の子供な自分はすぐそこに


                        2008.12.28. 制作


 化粧なんて絶対にしませんが(笑)、ガキだと思われることに極度に反発していました、私。
 そんな自分が一番、子どもだったわけです。嘆かわしい(苦笑 


                                                              photograph by FOG.