Neither blood nor tear

 血は出るんだな と
 他人事のように眺めた

 爪をたてられた手のひら
 研がれたばかりの刄が滑ったように
 呆気なく割けた皮膚

 血の滲んだ手のひら
 とてつもない虚無感

 血は出ている
 血は流れている
 のに なぜだろう
 涙が流れない
 涙が出ない

 泣き叫びたい
 我を忘れるまで
 血の涙を流すまで


 突如として現れた冷たい鏡に
 青白く消えそうな
 無様な自分の顔

 なんて顔してるんだよ と
 もう聞こえないはずの笑い声
 もう見えないはずの笑い顔

 ほら笑えよ と
 その懐かしい唇は動く

 無理にでも笑おうとした
 笑おうとした
 それなのに
 まるで糸が切れたかのように
 長年錘のかけられた糸が
 やっと切れたかのように
 とめどなく零れ落ちる涙

 無理に決まってる と
 呟けば
 私の髪を撫でて
 消えていった

 泣けなくて辛かったな と


 泣かない強さも
 泣けない弱さも
 いらなかったんだ


                        2008.10.25. 制作


 悲しいのに泣けないほどつらい悲しみはない、とは思います。
 けれど私はここまで陥ったことはありませんね、さすがに。 


                                                              photograph by FOG.