高台の魔女

 家の窓から
 町が
 沈んでゆくのを眺めていた

 いつから降り続けているのだろう

 遠い昔から
 果てしなく降り続けているようだ


 魔女と呼ばれながらも
 魔力が使えるわけじゃない
 人嫌いだから
 そう呼ばれているみたい

 誰も近寄らない
 この生活には慣れた
 石を投げ込む子供にも
 私の姿を見れば逃げていく大人にも

 それが
 迷い込んだ子猫に壊された

 家に入れてやりたくないのに
 勝手に入ってきて私を見つめていた

 仕方がないから
 その濡れた毛並みをタオルで拭いてやり
 その震えた体をミルクで温めてやった

 抱いてやりたくないのに
 勝手に膝の上で丸くなっていた

 仕方がないから
 その汚い毛並みを撫でてやった

 仕方がないから
 話し掛けてやった

 話が止まらなくなって
 涙が止まらなくなった

 相づちなんて打ってくれないし
 ハンカチなんて渡してくれない

 それでも話し続けて
 それでも泣き続けた

 気付いていなかったんじゃない
 気付かないふりをしていただけ

 認めたくなかっただけ
 認めれば負けるような気がして


 涙を流している自分に気が付く

 探しに行こう
 子猫を
 助けに行こう
 子猫を 

 そして
 助けなくちゃ
 町の人たちを

 寂しがり屋の魔女が
 初めて魔法を使う

 雨音を味方にして


                        2008.9.30. 制作


 物語のようにしてみました、久しぶりに。
 絵本でありそうじゃないですか、こういうの。
 まぁ、もう少し可愛らしく書かれているとは思いますが。 


                                                              photograph by ぐらん・ふくや・かふぇ