一重

 ぬるっとした
 生暖かい赤い液体

 動けなかった自分がいた

 まさか
 軽く転んだように見えた事故が
 こんなに大量の血を奪うことになるなんて
 思ってもみなかった

 頭を切った
 頭だからなおさら
 多くの血が流れた

 灯りをもらって
 はじめてわかる
 血まみれのわたしの手
 血まみれのあなたの顔

 頭だからなおさら
 血が流れた

 そのことに気付けなくて
 真っ白になる頭
 真っ暗になる視界

 あなたを失う
 あなたが消える
 それだけが
 ぐるぐると頭を支配する

 泣き叫んでいたわたし
 我に返れば
 怪我人のあなたに
 落ち着くように抱き締められていた


 この手は
 洗えない

 洗ってはいけない 

 忘れないために

 あなたを失いかけた
 悲劇の序章
 わたしを失いかけた
 喜劇の序章

 悲劇と喜劇は紙一重


                        2008.8.27. 制作


 我を忘れるほど怖く、滑稽なものはないでしょうね。
 まぁ、喜劇と言っているのは単なる皮肉なんですけど。 


                                                              photograph by FOG