Schwanengesang

 月影さやかな夜
 冴ゆる月影
 水面(みなも)を漂う月
 少しでも風が吹けば歪む
 儚く脆い月

 そこへ
 美しくも儚げな
 白き鳥が舞い降りる
 月は消えゆく
 それでもそこには
 月影に照らされて
 闇夜に浮かぶ純白の姿

 ここに
 美しきものは一つで良いと
 その翼で波紋を広げる

 仲間はいない
 ただ一羽
 一羽だけでこの湖にやってきた

 冷ややかな月光に照らされる
 その青い光の下
 はばたいてもはばたいても
 空には舞い上がれない
 はばたきを繰り返す鳥
 足は水から離れない

 それを嘆くかの如く
 哀しげな声で
 美しい声で歌う
 この世のものとは思えぬ歌を
 この世の
 美しいもの
 醜いもの
 全てが交ざったような声で
 歌い続けた
 柔らかな光に変わった月影の下
 一晩中

 次の朝
 亡骸が浮かぶ
 その命を削ってまで歌い続け
 その身を置いて舞い上がった
 白鳥の亡骸が


                        2007.12.10. 制作


 題名はドイツ語で「白鳥の歌」です。
 北欧には、白鳥は死ぬ直前に最も美しい声で歌う、と言う伝説があるようです。
 まぁ、そこから転じて、没前の最後の作歌または曲・演奏などのことを言うらしいです。


                                                                      photograph by NOION