債務奴

 遠い遠い異国の“彼女”は
 綺麗に笑った


 何代前からの借金かもわからない
 残額もわからない
 それを返すために
 今日も一日働きます

 遊んだことも
 勉強したことも
 ありません

 ただただ
 働くのみ

 農園主さんの余った食事を食べ
 農園主さんに使ってもらって

 家族に病気にならないでと願う
 借金が増えてしまうから
 借金を増やさないために
 家族の健康を祈ります 

 解放されることは決してない
 早朝から夜中まで
 ただただ
 働き続けます

 石のように眠り
 パンのように目を覚ませることを祈り
 一日が終わります
 労働が辛いとは思いません

 農園主の娘さん
 “彼女”より一つ年下の少女

 名門の私立小学校に通い
 成績はトップ

 娘さんの部屋には
 “彼女”には
 一生かかっても
 持つことのできない人形
 玩具が広がっている

 前日と同じような食事を前に
 またこれかと駄々をこねる娘さん
 親に食べやすくしてもらってから食べる

 “彼女”が掃除をしている間
 コンピュータゲームをする娘さん

 将来の夢は

 世界中の困っている人
 貧しい人を助け
 新しい生活をさせてあげること…


 その娘さんを
 呆れた目で見て
 軽蔑する
 遠い遠い異国の私がいる

 そして私は
 その娘さんそのものだ
 と思いました


                        2007.12.10. 制作


 実際の話です。
 テレビで見たのですが、その時はあの娘さんに驚愕させられました。
 お前何言ってんだよっ、と言う感じで(コラコラ
 けれどそれと同時に、その娘さんを軽蔑できない自分にも気づいたのですが。


                                                                      photograph by FOG.