砂上の相合傘

 刺すような海風に吹かれ
 襟を高く寄せる

 今にも泣きだしそうな灰色の空を眺めて
 色の変わった砂浜に目を落とす

 半年前の夏
 砂浜に相合傘を描いた
 二人の名を書いた
 すぐに波に消されてしまった
 それが可笑しくて
 互いに笑った
 君が描きなおした
 何度波に消されても
 そのたびすぐに描きなおすよと君は
 泥のついた満面の笑顔で言ったっけ
 それがまた可笑しくて
 また二人で笑ったよね
 そんな子供じみた平和が
 幸せだったよ
 本当に
 本当に
 幸せだったんだよ

 なのに
 それなのに
 今
 君はいなくて
 もう
 あの頃には戻れないんだねと
 もう
 君は戻って来られないんだねと
 君にもらったこの指輪
 悲しみと一緒に海に捨ててしまえたら
 どんなにいいか
 どんなに楽か

 この指輪
 たとえ君の形見でも
 この気持ち
 知りたくなかったよ

 降り出した冷たい雨に
 体温を奪われ
 高まった気持ちを冷まされる

 最後に一度
 もう一度だけ
 相合傘を描こう

 この氷雨に消されることのない
 あの波に消されることのない
 しっかりとした相合傘を
 この涙に消されることのない
 不滅の相合傘を


                        2007.10.30. 制作


 まだ幼い頃、相合傘なんて描きませんでしたか?
 その時はただの傘を描いていたはずが、今は傘の布の部分(?)は仕切ってはいけない、
なんていうルールができているのですよね〜。
 そんな面倒な描き方にしなくても…(苦笑


                                                                      photograph by m-style